STEAM教育とARTの重要性 ~未来を切り開く教育の新しい潮流

近年、教育分野で注目されている「STEAM教育」。これは、科学技術と創造力を融合させた新たな学びの枠組みを指します。特に、従来のSTEM教育(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加えられた「A(Art)」の役割が注目されています。本記事では、ART(アート)の意義や、それが未来の教育にどのように貢献するのかをわかりやすく解説します。

STEAM教育とは何か

STEAM教育は、以下の5つの分野で構成されています:

  • S(Science):科学
  • T(Technology):技術
  • E(Engineering):工学・ものづくり
  • A(Art):アート・創造力
  • M(Mathematics):数学

この教育の目的は、科学技術に優れた次世代の人材を育てることです。特に、日本でもプログラミング教育が学校で本格導入され、STEAM教育が注目されています。

STEMからSTEAMへの進化

もともと、ARTを含まない「STEM教育」は、技術革新を担う理系人材を育成することを主目的として始まりました。その成果として、高いプログラミング能力を持つ人材が多く輩出され、科学技術分野の発展に大きく寄与しました。しかし、**「技術力はあるが、創造性や表現力が不足している」**という新たな課題が浮かび上がりました。

この課題を克服するために追加されたのが、「A(Art)」です。アートの力を取り入れることで、技術力と創造性を融合させた新しい教育体系、すなわちSTEAM教育が生まれたのです。

ART(アート)が追加された理由

1. 限界を突破するための創造力

ARTがSTEAM教育に加えられた最大の理由は、「技術力だけでは限界がある」という認識からです。具体例を挙げると、STEM教育で育まれた人材は「与えられた課題を効率的に解決する能力」に優れていました。しかし、それだけでは「どんな課題を解決すべきか」「どんな新しい技術が必要か」を自ら見つけ出す能力が不足していたのです。

2. 表現力の重要性

どんなに優れた技術やアイデアを持っていても、それを適切に表現し伝える力がなければ、周囲の理解を得ることはできません。例えば、革新的な製品を開発しても、その価値を他者に伝えられなければ市場で成功するのは難しいでしょう。ARTは、こうした「伝える力」や「感性」を育むための鍵となります。

STEAM教育のARTで求められること

STEAM教育のARTは、学校の美術の授業で習うこととはちょっと違います。
美術の歴史や画材の使い方ではなく「芸術の根本的なこと」が求められているのです。

ここからは、STEAM教育のARTで求められることを具体的にわかりやすく解説します。

<考える力>

考える力とは「創造する力」です。数学や科学が得意な人は「もっと速くゴミを処理できる機械が欲しい」という問題は簡単に解決できるかもしれません。
しかし「ゴミ問題の解決策を考えてほしい」という問題はまったく別の力が必要です。ゼロから考える力が求められます。

ARTが持つ本質的な役割は、「オリジナルな発想」「今までにないアイデア」ゼロからアイデアを生み出す力を養うことです。例えば、環境問題に対して「ゴミを効率的に処理する装置を開発する」といった具体的な課題を解決するのは科学技術の役割です。しかし、「ゴミ問題の本質は何か」「そもそもゴミを生まない仕組みを作れないか」といった視点を持つには、想像力や創造力が必要です。

例えば絵画で「未来の都市」を描く活動を通じて、子どもたちが自分の理想とする社会の姿を自由に想像する。これにより、次世代の問題解決のヒントが得られる可能性があります。

<表現する力>

現代は、自分の考えを表現する力が劣っているように感じます。
自由研究の発表をするときに研究のきっかけを聞かれ「お母さんが言ったから」と答える子がいます。
先生が「お母さんがなんて言ったの? 」と聞くと「これがいいって」と答えます。

先生が「なぜお母さんはこれがいいって言ったの? 」と聞くと、やっと「私はカブトムシが好きだから」と答えを言うのです。
どんなに素晴らしい自由研究であっても、このような発表では素晴らしさが半減してしまいます。

高い能力をいかすためには自己満足で終わらないための表現する力が不可欠です。

<伝える力>

伝える力はコミュニケーション能力です。
ARTは、自分を表現することでありコミュニケーション能力は関係ないと思われているかもしれません。
しかし、ARTはコミュニケーションです。みる人に何かを感じさせることで作品はART作品になります。

ARTは、数学や科学のように正解がありません。
「答えは3」と言えばすべての人に伝わるということはなく、自分の表現を言葉や文化を超えて、相手にわかるように伝える力が必要です。

ART(アート)感覚を身につけるために親ができること

STEAM教育のARTは、学校教育を受ける前から始めることができます。
STEAM教育のARTは「考える・表現する・伝える」がポイントです。
この3つの経験が積める場所と機会を与えることが、ART感覚を子どもに身につけさせるために親ができることです。

「考える・表現する・伝える」は、絵を描くことや作品を作ることに置き換えることができます。
絵を描くとき「何を描こうかな」と考え、好きな画材を選んで表現します。

自分の表現したいことを相手に伝えるためには「どう描けばいいのか」を考えることは立派なコミュニケーション能力の育成になります。

学習塾や英会話教室に通わせることは、学力や知識の向上になります。
しかし、それだけではARTが追加されていません。

正解のない問題に挑戦する体験を積ませることが、ART感覚を身につけるために親ができることです。

おわりに

親世代が子どもだったころは、英語やそろばんのように技術力を高める習い事が人気でした。
しかし今求められている力は、技術力だけでなく、感じる力「感性」と想像する力「想像力」と表現する力「表現力」です。
ゼロから作品を生み出す「絵」でSTEAM教育のARTに求められる3つの力をプラスしてみてはいかがでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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