子どもに絵を習わせるとき、親は「今からでは遅すぎるのではないか」と気になります。
とくに最近は小学校入学前から習い事を始める子どもが増え、小学校から絵を習い始めることは遅すぎると感じるのかもしれません。
今回は、小学校からでも絵を習うことが遅くない理由を3つお話しします。
目次
小学校に入学してからの方が集中力はあるから
結論から言うと、絵を習い始めることに「遅すぎる」はありません。
なぜならば、絵を描くことは表現することであり、表現することは年齢に関係なく、いつでもだれでもできることだからです。
小学校から絵を習い始める子どもは、親の勧めではなく本人の希望で習い始める傾向があります。
本人が「絵を描くこと」に興味があり、学ぶ意欲を持っているため、集中して描くことができます。
たしかに小さなころから絵を習ってきた子どもは、感受性が強い時期に感性を育てられるだけでなく、早くから道具に慣れるメリットもあります。
しかし、幼いうちは集中力の個人差が大きく、絵を描くことよりも人やモチーフに興味がいってしまい、なかなか絵を描くところまでたどり着けない子どもも多いのです。
絵を習うタイミングは、子ども一人ひとり違います。
「本人が習いたい」と思ったときが絵を習う絶好のタイミングではないでしょうか。
好きなことや興味の方向性がわかってくるから
小学校に入学する7歳ごろになると、子どもの得手不得手や興味の方向性がはっきりとします。
運動が好きな子は学校から帰ってくると公園で走り回り、静かな時間が好きな子は家で本を読んでいるかもしれません。
モノ作りが好きな子は、家にあるものを使って工作を始めたり、裏紙に絵を描いたりしているのではないでしょうか。
ひとつのことに没頭している姿をみると、親は「苦手なことを克服させたい」と思うかもしれません。
しかし「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。
「好きなことは努力できる」「好きなことは上達する」という意味です。
どんなに親が「サッカー選手にしたい」と思っていても、運動嫌いでひとりを好む子には難しいお願いかもしれません。
それよりも、子ども自身が興味を持ち、好きなことを伸ばしてあげる方がいいのではないでしょうか。
その子の好きなことや興味の方向性がわかってくる小学生は、遅すぎるどころか絵を習い始めるいいタイミングです。
独学や家庭内の評価だけでは満足できなくなってくるから
小学校入学前は、完成した絵を家族に見せ、褒めてもらえるだけで満足できたかもしれません。
しかし、絵にのめり込み、好きになればなるほど、高みを目指します。
家族からの「上手だね」「よく描けたね」という評価ではなく、より具体的で専門的な言葉での評価が欲しくなるのです。
小学校では、たくさんの出会いがあります。
「自分は絵がうまい」と思っていた子どもが、自分よりも絵がうまい子どもと出会い刺激を受けます。
そのときに家族が「あなたの絵はうまいわよ」と言っても、子ども自身は満足できないのではないでしょうか。
小学生になると、理解する力がつくため、アドバイスをスポンジのように吸収します。
例えば、人間の絵を描くときに顔の表情は豊かに描けていても、顔と体のバランスが悪いことがあります。
小学生は「大人は顔7個分くらいで体を描くといいよ」と一言アドバイスするだけで理解することができるでしょう。
刺激を受けるときこそ成長のチャンスです。
絵は年齢に関係なく一生モノのスキルだから
絵を習う目的が小学校受験の試験対策ならば年齢制限があります。
一方「絵が描けるようになりたい」という目的ならば年齢制限はありません。
習い始める絶好のタイミングは「習いたい」と思ったそのときです。
人が絵を描く目的はたくさんあります。言葉が通じなくても絵で会話することができます。
言葉で表現できないことでも絵なら表現できることもあります。
たくさんある目的の中でも、一番大切な絵を描く目的は「自分を表現すること」「人生を豊かにすること」ではないでしょうか。
子育てを終えてから絵を習い始める人もいます。
定年退職をしてから絵を習い始める人もいます。自分を表現したり、人生に彩を添えたりすることに早いも遅いもないのです。
絵は一生もののスキルです。
おわりに
画家の伊藤若冲が本格的に絵を習い始めたのは、10代の半ばを過ぎてからです。
アンパンマンで知られているやなせたかしは、50歳のときに「アンパンマン」を発表しています。
ふたりに共通していることは「ずっと絵が好きだった」ということです。
絵が好きならば、小学校からでも大人になってからでも遅すぎることはありません。
伊藤若冲は、85歳まで絵を描き続けました。やなせたかしの活躍はご存じのとおりです。
大切なことは「いつから始めるか」ではなく「いつまで描き続けるか」ではないでしょうか。
筆者:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。