シニアにおすすめ! 水彩画の基礎知識と魅力

淡くやさしい雰囲気が漂う水彩画はシニアに人気があります。
カルチャーセンターでもシニアの方々がふるさとの風景や静物画を真剣に描いている光景をみかけます。

しかし、水彩画は油絵と比べて繊細なイメージがあり「難しそう」と思ってしまい、一歩を踏み出せない人も多いようです。

今回は、水彩画の基礎知識と魅力についてお話しします。

水彩画とは? 日本画との違いとは

水彩画は、水彩絵の具で描かれた絵です。
水彩絵の具は、顔料とよばれる色の粉をアラビアゴムで固めた絵の具です。
使うときには、水で溶いて使います。

一方の日本画は、顔料そのものを絵の具として使います。
使うときには顔料を膠と混ぜて使います。

水彩画は、趣味として描く人も多く、絵の具も手ごろな値段のものが流通しています。
日本画の顔料には「岩絵具」とよばれる天然の鉱石から作られるものもあり1色の値段が高価です。
水彩画も日本画も淡くやさしい雰囲気のある絵ですが、画材のコストや画材の使いやすさを考えると水彩画の方が始めやすいのではないでしょうか。

知っておきたい水彩画の有名な画家

水彩画にはさまざまな作風があります。
ここからは、奥が深い水彩画の世界を知るために水彩画で有名な画家を紹介します。
自分の好きな作風をみつけると、より描きたい方向性が明確になります。

<アルブレヒト・デューラー>

デューラーは、水彩画を有名にした最初の画家と言っても過言ではないでしょう。

デューラーは、1471年にドイツで生まれた画家です。
デューラーの水彩画で有名な作品は1502年に描かれた「野うさぎ」です。
写真と見間違えるくらいリアルな毛並みのうさぎが描かれています。

「野うさぎ」は、水彩絵の具だけでなくガッシュ(不透明水彩絵の具)を使って毛並みを表現しています。
デューラーと同じ時代を生きた画家にはレオナルド・ダ・ヴィンチなどルネサンス期の大物がたくさんいます。

多くの人が抱いている水彩画のイメージは「多めの水で溶いた絵の具でぼんやりと描かれた絵」かもしれません。
デューラーの作品は、水彩画の繊細さと油絵のような力強さが混ざっています。

<いわさきちひろ>

いわさきちひろは、1918年に日本に生まれました。
多くの人がイメージする淡くてやさしい水彩画らしい雰囲気です。とくに子どもの絵は人気があります。

激しい感情や表情を描いているわけでもないのに作品からは生き生きとした子どもの様子が伝わってきます。
たくさんの絵本も出版されていて、日本では一番身近な水彩画かもしれません。

いわさきちひろの作品には、水彩画のさまざまなテクニックが使われています。
作品をみながら「この髪の毛は渇筆(かっぴつ)だ」「この子は没骨法(もっこつほう)で描いてある」とテクニックを分析してみると勉強になります。

高度なデッサン力とテクニックがあるからこそ、やわらかい雰囲気の中にメリハリを生むことができるのです。

<藤田嗣治>

藤田嗣治は、1886年に日本で生まれました。
1955年にフランス国籍になり、洗礼を受けてレオナール・フジタとなりました。

藤田嗣治の作品の特徴といえば「白い肌」です。
透明感のある白い肌は、水彩画の世界観があります。

しかし実際は油絵で描かれています。
油絵の具とタルク、そして墨汁を使って白い肌を表現しています。
画材や絵の枠組みにとらわれない描き方は、藤田嗣治の生き方を連想します。

藤田嗣治の作品は、油絵や水彩画という垣根にこだわらず、たくさんのジャンルの作品があります。
しかし、どの作品にも共通していることは「繊細さ」です。

水彩画には欠かせない繊細さを学ぶためにも知っておきたい画家です。

水彩画の魅力とは

水彩画の魅力は、テクニックがたくさんあり、テクニックを学ぶことで淡くやさしい雰囲気から力強い雰囲気まで、誰もが表現できることではないでしょうか。
テクニックの種類が少ない画法は、それだけ描く人の技量によって作品の出来栄えが変わります。

しかし、テクニックの種類が多い画法は、テクニックを習得する時間はかかりますが、習得さえできれば頭でイメージした絵を誰もが表現できるようになるということです。

水彩画は、多くのテクニックがあります。
シニア世代は「早くドンドン描きたい」というよりも「じっくりと学びながら描くことを楽しみたい」という方が多いため、水彩画をゆっくりと楽しむことができるのではないでしょうか。

おわりに

「水彩画」は淡くやさしい雰囲気の作品がたくさんありますが、描き方によっては油絵のように力強く、写真のようにリアルに描くこともできます。

「水彩画は繊細で難しそう」と思っている人は、水彩画という枠組みにとらわれすぎているのかもしれません。

美術には「こうでなければならない」というルールはありません。
藤田嗣治のようにタルクやベビーパウダーを画材として使ってもいいのです。

水彩画にはテクニックがたくさんあります。
基本的なテクニックを学んだら、好きなように発展させられることも水彩画の魅力ではないでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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